前回の特集ページでは3大栄養素と、そのうちの「たんぱく質」を取り上げました。
今回は「脂質」です。
「脂身が食べられなくなった。」
「霜降りはもうちょっとでいい。」
という方が増えてきています。たしかに和牛の霜降りは私もきついです。
小学校の学校給食でも「脂身はカットで!」と脂身を子供が嫌っている様子が伝わってきます。
これはそもそも栄養士さんが献立を考えるときに「カロリー」を考えているので1gで9kclも供給される脂肪は必然と嫌われるようです。
ただひとことに脂肪といっても、お肉の脂やバター、魚の脂、揚げ物につかったりする油など
さまざまなものがあります。
バターやお肉の脂は常温で個体ですよね。
でもサラダ油、オリーブ油などの植物油は常温で液体です。これはなぜなんでしょう?
バターやラード(豚脂)は体に悪いのでしょうか?
植物油から作られるマーガリンやショートニングはなぜ常温で個体(やわらかいけど)なんでしょう。健康的なのでしょうか?
しっかりと理解をして、健康な生活を送りたいですね。
脂質は三大栄養素の中でも1g9kcal(たんぱく質は、炭水化物は)のエネルギーが供給されるもっとも効率の良いエネルギー源です。
脂質の90%以上はトリアシルグリセリン(中性脂肪)です。
中性脂肪は摂取されると、膵臓から分泌されるリパーゼによって脂肪酸とモノアシルグリセロールに分解されます。
この脂肪酸が種類によって生理作用が異なります。
グリセロールはまたの機会に触れるとして、
この脂肪酸を今回はじっくり見ていきます。
質問の答えも脂肪酸を理解すると分かります。
飽和脂肪酸は常温で個体です。そしてとても安定しています。
ラードやバターといった動物性脂肪に多く含まれています。ヤシ油、パーム油にも含まれています。
牛肉や羊肉に多く含まれているステアリン酸のように、熱や酸化にとても強い脂肪酸です。
すぐに酸化したりしません。中性脂肪やコレステロールの合成を促進します。
不足すれば血管がもろくなり、多すぎると動脈硬化の原因となります。
脂肪酸の分子構造は炭素がつながり、その炭素に水素がくっついてできています。
後述する不飽和脂肪酸の分子構造とみくらべると一目瞭然ですが、
飽和脂肪酸の分子構造をみると、炭素に水素がびっちり結合しています。
そのためとても安定しています。
完全に飽和脂肪酸だったり不飽和脂肪酸だったりする脂肪はありません。
どの脂肪も飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の組み合わせでできています。
次に不飽和脂肪酸は一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類されます。
一価不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸よりもやわらかいです。オレイン酸が有名ですね。
これは豚肉や牛肉に多く含まれています。ヒマワリ油、ベニバナ油、オリーブ油、ナタネ油にも
多く含まれます。
やわらかい理由は上記の図のように、水素分子がかけているためですが、
概ね安定しており、酸化するのも早くはありません。
同じ牛肉でもオレイン酸が多めになってくると、融点が低くなり、やわらかい口当たりの脂になります。
多価不飽和脂肪酸は常温で液体です。
魚脂に含まれるDHAやEPAが有名ですね。植物油のリノール酸、葉物野菜のα-リノレン酸、卵やレバーに含まれるアラギドン酸が有名です。
多価不飽和脂肪酸を多く含む脂質が常温で液体なのは、二組以上の水素分子がかけており、
飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸より柔らかいためです。そしてとても酸化しやすいです。
酸化した脂肪は病気を招いたり、ヒトの細胞のDNAを傷つけます。
免疫システムの機能を低下させます。
動物性脂肪は肥満や心疾患の原因とされてきました。とりすぎはもちろん問題ですが、肥満や心疾患の原因は「炭水化物(糖質)」の摂取過剰によるものです。食品から摂取した脂肪で、吸収されない部分は体外に排出されます。
脂肪酸の望ましい摂取割合は
飽和脂肪酸:一価不飽和脂肪酸:多価不飽和脂肪酸= 3:4:3
であるといわれています。
魚のDHAやEPAは体内で合成されます。
お肉と野菜をしっかり食べればバランスがよくなります。
近年注目を浴びているのが、トランス脂肪酸です。
植物油から水素添加して大量につくられるサラダ油、マーガリンやショートニングに
多く含まれています。
トランス脂肪酸は多価不飽和脂肪酸を水素添加(もしくはエライジン化)という化学反応をすることで生成されてしまいます。動物性脂肪のラードでも水素添加によって大量生産されるものはトランス脂肪酸が多く含まれます。
動物性脂肪が問題視されてきた一方で、工場で大量に精製される、安くて手に入りやすいサラダ油などの植物性油、マーガリン、ショートイニングは大量にトランス脂肪酸を含んでいます。
これらの油はファーストフードや揚げ物などの加工食品、乳製品だとばかり思っていた安いソフトクリームやアイスクリームに多く利用されています。
アメリカではこのトランス脂肪酸を規制する動きもでています。
過剰な摂取は深刻な健康被害をもたらします。
天然に存在するトランス脂肪酸は、共役リノール酸(conjugated lonoleic assid CLA)といい、バターや反芻動物の脂に含まれています。
これはガンを抑制し、体重増加や心疾患をふせぎます。
人間の体内で合成されない必須アミノ酸(※たんぱく質編を参照)があるように脂肪酸にも必須脂肪酸があります。(ちなみに必須炭水化物、必須糖質というものはありません。)
ω-6脂肪酸のリノール酸やω-3脂肪酸のα-リノレン酸が代表的です。多価不飽和脂肪酸です。
ω-数字は、炭素の二重結合の場所で、系統が分かれます。
s 理想的なω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の割合は2:1だそうです。
牧草肥育された動物の肉やその乳でできたバターにはω-3脂肪酸が多く含まれるのですが、
穀物肥育されたものはω-6脂肪酸の含有量が多くなるようです。
脂質も糖質(炭水化物)やたんぱく質と同じようにアセチルCoAとなり、
TCA回路というものに入ることでエネルギー(ATP)として利用されます。
食事からとった中性脂肪や体内に蓄えられた中性脂肪はグリセロールと脂肪酸に分解されます。
脂肪酸はβ-酸化をへて、大量のアセチルCoAとなります。
このうちTAC回路に入れなかったアセチルCoAがケトン体となり、エネルギー源となります。
グリセロールは糖新生という過程を経てエネルギーになります。糖質を制限した食事をすると、
糖新生が活発になります。そのとき脂肪酸をエネルギーに変えるオキサロ酢酸というものが不足し、
ケトン体が多く生成されます。
脂肪から連想するものにコレステロールがあります。実際は、コレステロールは脂質ではなく、動物性たんぱくの中にあるステロールやアルコールのタイプです。私達の細胞膜や脳みそはコレステロールでできています。主要な臓器は活動にコレステロールを必要とします。その臓器の修復のためにも必要とされます。コレステロールの体内での働きとしては、
・人体を構成している60兆の細胞膜の構成成分
・副腎皮質ホルモンや性ホルモンの材料
・胆汁酸の材料として、脂肪分や脂溶性ビタミンの消化・吸収を促進
というものがあります。コレステロールの英語名 ChoresterolnのChore-はギリシア後の胆汁という意味です。コレステロールはほとんどが肝臓で合成されます。コレステロールは健康面でも大切です。
最近の研究では、コレステロール値が低いと、疾病にかかりやすく、鬱になり、感染症のリスクも高まることが判明しています。
みなさんご存知のことばに、HDLとLDLがあると思います。
じつはHDLやLDLはコレステロールそのものではなく、リポ蛋白質がつくる複合体です。
例えばHDLは High Density Lipoproteinの略です。
HDL(善玉)は古くなった細胞に含まれるコレステロールを回収し、肝臓にもどす働きがあります。LDL(悪玉)は肝臓で合成したコレステロールを必要な細胞に送り届けます。
このHDLとLDLのバランスが崩れると脂質異常症や動脈硬化の原因となります。
今回は三大栄養素【たんぱく質、脂質、糖質(炭水化物)】のうち脂質についてでした。
脂肪については、多くの誤解がうまれやすいため、ちょっとボリュームが増えてしまいました。
多価不飽和脂肪酸が主となる食物油は、存在に気づきにくいせいもあって、
日常的に摂取してしまいます。
ですがトランス脂肪酸の多い水素添加された油は体にいいものではありません。
牛の脂や豚の脂は食感的にも視覚的にも脂!という感じなので、どうしても肥満を連想してまいます。
太ってしまい、お医者さんにかかると「お肉を減らしなさい」といまだにいわれてしまいます。
これは完全に間違いです。
人間が太ってしまったり、不健康な状態になるのは、「糖質(炭水化物)」が原因です。
また体に蓄えられた脂肪は糖質が体内に入ってこないと、
優先的に代謝されエネルギーになります(糖新生)、また一部はケトン体となりこれもエネルギーとなります。
次回、糖質について勉強していきたいと思います。
今回説明が不足しているものについても補足していきます。