これまでにたんぱく質、脂質、糖質(炭水化物)とビタミンを学んできました。
たんぱく質、脂質、糖質は三大栄養素とよばれ、英語でもMacronutrientsといい、
必要な量も多くなります。
これに対して、Micronutrients(微量栄養素)と呼ばれるものにビタミンとミネラルがあります。
簡単にいえば必要量はさほどではないけども、生命を維持していく上で重要な栄養素ということです。
今回はこのミネラルを見ていきたいと思います。
ミネラルには主なものとして、ナトリウム(Na)、クロール(Cl)、カリウム(K)、
カルシウム(Ca)、リン(P)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、
銅(Cu)があります。
人間の体の60〜70%は水分です。
のこりの30%〜40%はほとんどがたんぱく質と脂質で、糖質は1%程度です。
この水分(体液)の中に溶け込んで、生命の維持に必要となっているのが、ミネラルです。
ミネラルは水に溶けてイオンとなり、通電性をもつので、「電解質」とも表現されます。
日本では糖質(炭水化物)、たんぱく質、脂質を三大栄養素といいます。
それにビタミン・ミネラルを加えたものを五大栄養素と呼びます。
外国ではこの三大栄養素を「Macronutrients(多量栄養素)」、
ビタミン・ミネラルを「Micronutrients(微量栄養素)」と呼んでいます。
これまでの学問所通信を見てきたように
たんぱく質と脂質こそが多量栄養素としてふさわしく、
糖質は微量栄養素として最低限の摂取におさえる事が健康にいきるための秘訣です。
それぞれのミネラルを見ていく前に、
もう一度、食べ物の消化吸収について詳しくみていきたいと思います。
栄養の消化吸収にミネラルが大切な役割を果たしているからです。
食べ物を口の中で噛み砕くことを「咀嚼」といいます。
そして飲み込むことを「嚥下」といいます。
咀嚼・嚥下された食べ物は食道を通り、胃に運ばれていきます。
胃では食物がはいってきたのを胃の出口(幽門)あたりにあるG細胞が感知して、
ガストリンというホルモンを出します。
このホルモンによって胃腺から胃酸とペプシノーゲンが分泌されます。
胃酸はHClでできており、水に溶けると、水素イオン(NAD+)と塩素イオン(Cl-)に別れ、
水素イオンが食べ物を殺菌します。
ペプシノーゲンはペプシンとなり、たんぱく質をポリペプチドに分断します。
これにより、食べ物はどろどろのび粥となり、幽門からすこしつづ、次の十二指腸に送られていきます。
十二指腸に送られたび粥は膵臓からでる膵液と胆嚢からでる胆汁によってさらに消化されていきます。
膵液には重曹(HCO3Na)が含まれています。
重曹はアルカリ性のため、 胃酸に酸性となっているび粥を中和します。
膵液には、でんぷんを麦芽糖(マルトース)に分解できる「アミラーゼ」と胃でたんぱく質が分解されたポリペプチドをさらに小さなジ(もしくはトリペプチド)まで分解する
「たんぱく分解酵素(トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチターゼ)」が含まれています。
膵液にはリパーゼという酵素も含まれており、これは脂肪をモノグリセリドと脂肪酸に分解します。
胆汁はこのリパーゼが働きやすいように脂肪に働きかけます。
十二指腸によって、でんぷんはマルトースというグルコースが2つ結合した物質まで分解されます。
また、たんぱく質はジペプチドとよばれるアミノ酸が2つ結合した物質まで分解され、
次の小腸に運ばれていきます。
マルトース(スクロースやガラクトースといった二糖類も)やジペプチドではまだまだ吸収するには
大きく、小腸の壁(小腸上皮細胞)にくっついている消化酵素によってさらに小さく分解されます。
マルトースはマルターゼという酵素によって、グルコースに分解されます。
そしてそのまま細胞内に吸収されます。
※スクロースはスクラーゼによりグルコースとフルクトースへ、ガラクトースはラクターゼにより
ラクトースとグルコースと、単糖類まで分解されます。
またジペプチドはアミノペプチダーゼなどの酵素により、
様々なアミノ酸にまで分解され、細胞内に吸収されます。
糖質はグルコースなどの単糖類まで、たんぱく質はアミノ酸まで分解されて初めて、
小腸上皮細胞から、細胞内に吸収されます。やっと体内に栄養素が取り込まれることになります。
小腸上皮細胞はもちろんですが、細胞を囲っている膜(細胞膜)は脂肪でてきています。
グルコースやアミノ酸は水に溶けているため、細胞膜をそのままでは通過できません。
グルコースやアミノ酸はナトリウムイオン(Na )といっしょに、輸送体とよばれる通路を通って
上皮細胞内に取り込まれます。上皮細胞の反対側には肝臓につながる血管が張り巡らされていて、
栄養素は血管に渡され、血液によって肝臓まで運ばれ、さまざまな代謝を受けることになります。
のこされたび粥は、大腸に運ばれ、水分とともにミネラルが体内に吸収されます。
口から胃、そして腸、肛門までは体内と思われガチですが、実は「体外」なのです。体の外です。
体の外なので、その外側の壁は上皮細胞というもので覆われています。
最近有名になってきた、腸内細菌叢(腸内フローラ)も実は体外にいっぱいいるんですね。
体の中だけど、体外です。
体外から小腸や大腸の上皮細胞で吸収されて初めて、栄養素は体内に入っていきます。
私たちの細胞の中にあるミトコンドリアは酸素をつかってエネルギーを作り出します。
酸素はどうやってミトコンドリアまで届けられるでしょうか。
肺からとり込まれた酸素は血液にとけて、全身の細胞に酸素を届けます。
この時に重要な役割をするのが「赤血球」です。
赤血球の中には「ヘモグロビン(Hb)」というたんぱく質が詰め込まれています。
このヘモグロビンが酸素をがっちりとつかんで、酸素を全身の細胞へ運びます。
ヘモグロビンはαグロビンとβグロビンという大きなたんぱく質で構成されています。
このたんぱく質の中心に「ヘム」という有機物質が結合しています。
「ヘム」と「グロビン」でてきているから「ヘモグロビン」なんですね♪
このヘムはその真中に鉄分子「Fe」を1個持っています。
この鉄分子に酸素が結合しています。
ヘモグロビンは肺の近くでは酸素と結合して、血流にのって各組織の細胞に達すると酸素を手放します。
こうして酸素を全身に供給しています。
動脈と静脈の血液の色が違うのはご存知でしょうか。
肺で酸素がとり込まれた血液は動脈にのって全身に運ばれます。
ヘモグロビンは酸素が取り込まれると赤くなります。
お肉もブロックからの切りたては薄暗い赤色をしていますが、
空気に触れるとヘモグロビンが酸素と結合して、鮮明な赤色になります。
このため酸素と結合したヘモグロビンが多い動脈の血液の色は鮮やかな赤い色をしています。
そして細胞に酸素を渡した血液は静脈を流れます。この静脈の血は赤紫色という暗い色をしています。
余談ですが、一酸化炭素が体内にとり込まれると、酸素を押しのけて、
ヘモグロビンと結合してしまいます。しかも離れません。
このため、体は酸素不足となり、力を出すことができなくなります。
これが一酸化炭素中毒です。
血液検査の項目にHbA1cというものがあります。
これは糖化ヘモグロビンと呼ばれるものです。
ヘモグロビンのβ鎖にグルコースが結合したものです。
糖質過剰の食生活で血糖値が高い状態がつづくと、ヘモグロビンが糖化します。
この数値が高いと、血糖値が高い状態が続いていると判断されるため、
糖尿病が疑われるわけです。
血糖値が高い状態は血管も傷つけ、さまざまな生活習慣病を
引き起こすので注意が必要ですね。
これまでに見てきたように、ミネラルは五大栄養素として生命の維持に重要な役割を果たしています。
必要とされるのは微量で、お肉中心のバランスの良い食事をしていれば
基本的に欠乏することはありません。
ミネラルが不足すれば、体がもろくなったり(骨粗しょう症)、貧血になったり、
浸透圧の調整不十分になりむくんだりします。また神経の働きを保てず、
精神不安定になったりとさまざまな不調を起こします。
ですが「足りないならサプリで補充だ!」とはいきません。
欠乏症もですが、過剰症もあります。
またコンビニ弁当やレトルト食品は、原材料の精製や調理の過程で、
ミネラルがすでに失われていることも多いようです。
栄養価の高いお肉を食べて、ミネラルだけでなく、たんぱく質や脂質、
ビタミンもきちんと補える食事をすることが大切ですね。
これまでの学問所通信では、(脱線はありましたが)五大栄養素と呼ばれる糖質、たんぱく質、脂質、
ビタミン、ミネラルを学んできました。
また五大栄養素をうまく吸収してエネルギーなどとして代謝して、
ヒトが健康的に生活していく秘訣をみていきました。
私たちは「カロリー神話」にずっと惑わされてきました。
カロリー神話があるために、減量や健康的な食生活は低カロリーか低脂肪な炭水化物が
中心となっていました。
そして「ごはんをしっかり食べなさい」と刷り込まれてきました。
ごはんやパンなどの炭水化物自体を否定するわけではありません。
身の回りに炭水化物が溢れすぎていて、その結果、糖質過剰となり
さまざまな生活習慣病を引き起こしているのです。
次回は、「中性脂肪とコレステロール」についてです。