第23回 新しい栄養学とケトジェニックダイエット その2(1/2)

学問所通信 特集コーナー
第23回 新しい栄養学とケトジェニックダイエット その2
第23回 新しい栄養学とケトジェニックダイエット その2


あたらしい栄養学をいまこそ構築すべき


前回の学問所通信で、今の栄養学にひそむ大きな間違いを指摘してきました。

私たちはこの栄養学を受け続けなければならないのでしょうか。

世界中で蔓延する肥満や生活習慣病、不妊症、その他もろもろ疾病を私たちは甘んじて受け入れなければならないのでしょうか。

お医者さんや栄養士さんからは、カロリーの多い食品、肉や脂、卵はなるべく摂取せず、穀物や野菜中心の食生活を送るよう指導されます。
「カロリーを控えなさい」、「もっと運動しなさい」と言われます。これらの言葉は、一時的な効果があるかもしれません。しかしながらほとんどのケースで長続きできず、さらに深刻な事態を引き起こしかねません。

私たちが健康にいきていく上で、大切なのは食事です。 
薬を飲むことでも、サプリメントを取ることでもありません。
もちろん運動も適度なものはよいのですが、
強度の高いものはあまり健康的といえないかもしれません。

一体全体どうすれば良いのでしょうか?
これまでの話を振り返って、「食事」というものをあらためて考案したいと思います。

私たちの食事には大きく2つのモードがあります。

ひとつは「蓄えるモードの食事」です。
意味はあとで説明するとしてこれを「グルコダイエット」と呼ぶことにします。

もう一つは「燃焼するモードの食事」です。
こちらもあとで説明するとして「ケトジェニックダイエット」と呼ぶことにします。

ダイエットとはここでは「食事、食生活」という意味です。
「痩せる食事」という意味ではありません。

この二つのダイエットを理解することが、健康的にいきていく鍵となります。

グルコダイエットとは


炭水化物が多い食事でかつ栄養素が不足していると、
ひとは「蓄えるモード」になります。

「蓄えるモード」になると人間の代謝は落ち、
エネルギーをできるだけ脂肪として蓄えるようになります。

この炭水化物に多く含まれるのが「糖質」です。

糖質には大きく「ぶどう糖(グルコース)」と「果糖(フルクトース)」があります。
グルコースやフルクトースの多い食事という意味で「グルコダイエット」と呼ぶことにしました。

グルコダイエットが蓄えるモードと言われるゆえんは、糖質とくにグルコースを摂取することによる「インスリン」分泌にあります。

血液中のグルコース(血糖値)が上昇すると、脳はそれを下げようと副交感神経を刺激します。
そして膵臓がインスリンを分泌するように指示を出します。

エネルギーとして利用されない余ったグルコースはインスリンによってグリコーゲンに変えられ、
肝臓や筋肉に蓄えます。

ただし貯蔵できるグリコーゲンはわずかで、
その余剰グルコースのほとんどが中性脂肪に変えられます。

中性脂肪が皮下脂肪や内臓脂肪になることで、太っていくのです。

インスリンはまた筋肉を合成して蓄える作用を促進したりもします。

副交感神経の役割はインスリンの分泌を促すだけではありません。

身体を落ち着かせ、エネルギー消費を抑えます。 腸は運動が促進され、消化がよくなり、
食物からの栄養をできるだけ搾り取ろうとします。

糖質の多い食事をしたあとに、自然と眠くなるのはこのせいかもしれませんね(笑)
(血糖値の急低下が原因ですが)

排便される量が減るので、「食物繊維でカサ増し」する必要があるのです。
*排尿は増えます。

「蓄えるモード」は人間がきたる飢餓にそなえ、わずかな食糧からの栄養を脂肪という形で蓄えられるように、人間が適応してきたものです。

過剰な糖質は危険


問題は、現代の私たちの食事には、砂糖や異性化糖といった糖質(グルコース、フルクトース)が大量に使われている食品が多く、食べる量はすくなくても、体に流れ込む糖質は大量になっていることにあります。

多くの食品に含まれているグルコースは、血糖値を急激にあげ、インスリンを大量に分泌させます。
インスリンはほとんどの場合で分泌されすぎ、今度は急激な低血糖をまねきます。
そうすると人間は飢餓感を感じ、さらに甘いものを欲します。

「蓄えるモード」は過食を招きやすいという傾向があります。

また現在の果物は品種改良により糖度があがっています。 
そうした果物や砂糖、異性化糖に含まれるフルクトース(果糖)はまっすぐに肝臓に押し寄せます。
大量のフルクトースをうけた肝臓はそのほとんどを圧倒的なスピードで中性脂肪に変えます。
これが脂肪肝となり、からだに様々な慢性炎症をもたらす原因になるのです。

そして肝臓からあふれでた脂肪は、血流に放り出され、内臓脂肪細胞にたどりついたり、
動脈などの有害な場所にたどりつくことになります。




内臓脂肪の特徴

内臓脂肪として蓄えられた中性脂肪は

1:ホルモンに対する感受性が皮下脂肪などに比べて数倍高く、代謝も活発
  つまり、急速に脂肪を蓄積したり、それをエネルギーとして放出しやすい

一方で

2:内臓脂肪が脂肪酸を放出するとそれを肝臓に送り込む。
  やがて肝臓に脂肪が蓄積すると、さまざまな代謝上の問題を引き起こす

という特徴があります。
グルコースやフルクトースを含んだ食品を食べることが問題なのではありません。

人間は「余分なエネルギー(糖質)を脂肪に変えることに長けている」のです。
ただし、人間が適応してきた以上に現代の食品には糖質が過剰に入っています。


過剰なグルコースが脂肪に変えられ、フルクトースも脂肪に変えられて、肥満になっていくのが問題なのです。

しかもこうした食品は糖質量が高い上に、高度に加工され、多くの場合で貴重なミネラル、ビタミンや、食物繊維は取り除かれ、大量の添加物が加えられています。つまり、栄養に乏しいのです。栄養が不足すれば、ひとは脂肪を増やし、代謝を落とすよりほかありません。

アメリカの青少年は、その親達が同じ年齢だった1975年に比べ、遥かに大量のインスリンを分泌しているといわれています。日本でも同じような状況です。

インスリンが上がりっぱなしだと、脳にも影響を及びおし、脳に満腹感を与えるホルモン「レプチン」に脳が反応しないようになります。それがさらに食欲を掻き立てます。

同様にいろんな臓器のインスリン抵抗性が高まり、高血糖状態はおさまらず、膵臓はさらにインスリンを分泌します、やがて膵臓のインスリン分泌力は衰え、糖尿病へと進んでいきます。

過剰な糖質が及ぼす影響について


グルコダイエットはカロリー主義

わたしたちは「カロリーを取りすぎるな」と口を酸っぱくして言われてきました。
糖質のカロリーは1gあたり4kcalといわれてます。脂質は1gあたり9kcalです。なんと倍以上です。

なのでカロリーをおさえながらも、栄養素を確保するには(確保できてませんが)、糖質を中心にした食事設計をするしかありません。


グルコダイエットは塩分摂取控えめに

また「塩分は控えめに!」とも耳にタコができるぐらい言われます。
実はグルコダイエットと減塩はセットにしないと高血圧などの問題を引き起こします。

インスリンは腎尿細管においてナトリウムの再吸収抑制作用があります。

そのため、食事から摂取する塩分が多いと、塩分過多になってしまいます。

グルコダイエットまとめ


下記の表と図にグルコダイエットのまとめを書いています。 

グルコダイエットまとめ


下記図では中央の縦線右側がグルコダイエットのときのホメオスタシス(恒常性)を保つ仕組みです。左側がケトジェニックダイエットのときのホメオスタシスを保つ仕組みです。


ホメオスタシスを保つ仕組み

私たちの成長や健康は「自律神経系」が支配しているといえます。
ホメオスタシス(恒常性)を維持することによって、健康に生きていくことができるように調整されているのです。グルコダイエットで食後血糖値が上昇すると、脳がそれを感知します。
ホメオスタシスを保つために、インスリンを分泌、血糖値を下げる様に働きます。

脂肪を蓄えるグルコダイエットで太るのは抗しがたい人間の生理現象なのです。
グルコダイエットで脂肪増加を抑えるにはコンスタントな運動が必要です。

ケトジェニックダイエット

次に「燃焼するモードの食事」、ケトジェニックダイエットを説明します。ケトジェニックダイエットはざっくり言うとグルコダイエットの逆です。

低糖質、中たんぱく質、高脂質な食事が中心となります。

そして体内に蓄えられた中性脂肪(とくに内臓脂肪)を分解して利用します。分解された中性脂肪は、脂肪酸とグリセロールになります。

脂肪酸からケトン体を生成し、脳をはじめとする細胞のエネルギーとして利用します。

グリセロールは肝臓(一部は腎臓)の「糖新生」というプロセスで必要な量のグルコースを生成します。なので、低血糖には通常なりません。

グルコダイエットのホルモンは「インスリン」でしたが、ケトジェニックダイエットで重要になるホルモンは「グルカゴン」です。

食事から得られる糖質が少なく、また体内のグルコースが枯渇しはじめると、血糖値を維持するためにグルカゴンが肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンをグルコースに変えるように働きかけます。
そのグリコーゲンが枯渇すれば、肝臓においての糖新生を促進して、血糖値を安定させるのです。

内臓脂肪はエネルギー源として利用しやすく、グルコースをエネルギー源とする場合より、格段に効率がよく、長持ちします。

ケトジェニックダイエットでは、食事を摂取したあとに、インスリンの追加分泌はなく、
血糖値が安定します。
そのため、食後の居眠りなどはほとんど起きません。

代謝もよく、長持ちするため、朝から晩までを有効に使えます。しかも疲れしらずです。
夜はベッドに入ったとたん、深い眠りを得られ、朝の目覚めもとてもよいです。
寝ている間には成長ホルモンが分泌され、とくに子供はぐんぐん成長します。


ケトジェニックダイエットは栄養量主義

ケトジェニックダイエットでは、カロリーで一日の食事量をコントロールするのではなく、必要な栄養素量で食事を設計していきます。必須アミノ酸や必須脂肪酸、ビタミン、ミネラルが確保できる、肉、魚、卵、チーズが中心になります。

糖質は必須栄養素ではないのです。

ケトジェニックダイエットは塩分多め

グルコダイエットのときと違い、ケトジェニックダイエットでは、塩分がしっかりと尿から排出されます。もちろん取り過ぎは注意が必要ですが、満足のいく程度の塩分補給が必要です。




ケトジェニックダイエット(および糖質制限食)で便秘になるは誤解

低炭水化物ダイエットが便秘を引き起こすというのは誤解です。
便秘になるひとは実は「塩」が不足していのです。塩の摂取を増やせば便秘は簡単に解消します。ナトリウムなどのミネラルが大腸の蠕動運動を刺激するためです。

市販の便秘薬ってナトリウムが含まれているんですよ。
高炭水化物食(いわゆる今の一般的な食事)から低炭水化物食に移行する際、グリコーゲンの減少に伴う水分および塩分の排出、またインスリンによる腎尿細管でのナトリウム再吸収促進も作用もなくなり、体内の塩分が少なくなります。これが便秘を引き起こすのですね。

ケトジェニックダイエットまとめ

ケトジェニックダイエットとグルコダイエットの比較

左側がケトジェニックダイエットでホメオスタシスを維持する仕組みになっています。

ホメオスタシスを保つ仕組み

実はこの左側の図は、ケトジェニックダイエットのすべてを表していません。
あくまでも血糖値を維持するという点で描かれています。
ケトジェニックダイエットでは、必要なエネルギーは脂肪を分解して作ります。
脂肪酸はケトン体となり、全身のエネルギーとなり、グリセロールは糖新生に使用されます。
脳もケトン体をエネルギーとして効率よく使用できます。