2017/10/11
第24回から第26回まで、
第24回鹿児島放牧黒豚
第25回NZ産牧草牛&大分県産牧草肥育牛
第26回九州赤身牛
とその飼育方法と飼料をおおざっぱに述べてきました。
今回はその総集編です。
学問所では、成長ホルモン剤はもちろんのこと抗生物質をまったく投与しない、もしくは少なくとも幼少期のみの投与の牛・豚・鶏肉を優先して販売しています。
では成長ホルモン剤や抗生物質はなぜ排除しなければならないのでしょう。
成長ホルモン(Growth Hormone、GH)は牛の脳下垂体前葉のGH分泌細胞から分泌されます。
その分泌の刺激により、主に肝臓でインスリン様成長因子(IGF-1)が分泌されます。
インスリンという膵臓からでるホルモンに類似しているので「インスリン様」なんですね。
IGF-1は牛の筋肉、骨、肝臓、神経、皮膚、肺のの細胞へ影響を与え、成長を促進させます。
この仕組みは我々ヒトも同じです。
成長ホルモン剤を投与するば、乳牛は搾乳量が増え、肉牛であれば、産肉量が大きく増えることになります。しかも短期間にです。これだけ聞くと、なにかいいことのようですね。生産者も儲かりますし、食品も安く買えることになりそうです。
問題は牛のIGF-1もヒトのIGF-1もまったく同じ形だとゆうことにあります。
ヒトと牛が分泌する成長ホルモンはそれぞれ別種のものなのですが、それらの成長ホルモンは、人間も牛でもまったく同じIGF-1を生成してしまいます。驚きですね。
成長ホルモン剤を投与された牛からの高濃度のIGF-1をヒトが取り込めば(牛乳やステーキとして!)、ヒトにも影響を及ぼす可能性があります。
とくにガン(男性では前立腺がん、女性では乳がん)を発症する確率がかなりアップすることが研究結果でわかっています。
IGF-1はたんぱく質より小さい、またアミノ酸より大きいポリペプチドです。
なので、これを人間が経口摂取しても、消化されて、アミノ酸として吸収されるから影響がないといわれていました。
ですが、とくに牛乳の場合にはIGF-1は【カゼイン】という乳たんぱく質に守られているため、牛乳から摂取したIGF-1は人間にも影響を与えることが分かっています。
成長ホルモン剤を過剰投与することにより、IGF-1が高濃度で食品に残留してしまうことはとても大きな問題です。
成長ホルモン剤を投与された乳牛は多くの乳を出すようになります。
そこで起きる問題が「乳房炎」です。
乳の出し過ぎで乳房が炎症を起こすのです。
乳牛がこれを発症すると乳牛農家にとって大きな痛手です。
その治療に使われるのが「抗生物質」です。
濃厚な穀物飼料で育てられる家畜では、感染症を起こしやすいため、予防的に抗生物質が投与されている場合がほとんどです。家畜に投与された抗生物質が食品となったとに残留していれば、人間がそれを取り込むことになります。
抗生物質は、腸内細菌叢によって吸収されます。それによって腸内細菌は死滅し、バランスを崩します。腸内細菌のバランスが崩れ、機能しなくなれば、ヒトも家畜も太りやすくなります。
しばしば、成長目的で抗生物質が家畜に投与されるのもこれを利用しています。
成長ホルモン剤や抗生物質などを投与された家畜は、急激に大きくなります。
肉質は水っぽくなり、大味になります。解凍時のドリップも多くなります。
まさに、なにか、膨らませた肉のような感じになります。
だだし、こうした肉質に及ぼす影響と、薬品が残留しているかどうかは別の問題です。
程度も問題なので難しいところはあるのですが、投薬が家畜の生後に限られ、肥育期には使用されなければ、残留の問題はほとんどないと思われます。薬品は主に、腎臓・肝臓で代謝を受け、対外に排出されます。
もちろん、まったく利用しないというのが理想なのですが、蔓延する家畜の病気があり、なかなか難しい状況です。抗生物質を投与するから耐性菌ができるという悪循環もあるのですが・・・
抗生物質というと「薬」と認識している方も多いと思います。
Wikipediaによると「抗生物質(antibiotics)とは、微生物が産生し、ほかの微生物などの生体細胞の増殖や機能を阻害する物質の総称。一般に抗菌薬(antibacterial drugs)ともよばれ、広義には、抗ウイルス剤や抗真菌剤、抗がん剤も含む。」とあります。
1928年にアレクサンダー・フレミングがアオカビから産生されたペニシリンという抗生物質を発見しました。これにより世界的に蔓延していた細菌による感染症の治療が可能となり、多くのヒトが命を救われました。その後、ウイルスや真菌に対する抗生物質が次々と開発されいます。
抗生物質は病気のもとにならない体内の細菌にも作用してしまうため、大量に使用すると
体内の細菌バランスを崩してしまい、さまざま問題を引き起こす可能性があります。
腸内細菌叢という単語ができてきたので、簡単にまとめておきます。
腸内細菌叢や腸内フローラという言葉を最近TVやニュースで見かけることが多くなりました。
マイクロバイオータ、マイクロバイオームとも呼ばれます。
ヒトや動物の腸の内部には細菌が生息しています。ヒトでは約3万種類1000兆個の細菌が生息しているといわれています。ヒトの体を作る細胞数は約60兆個といわれているので、すごい数ですよね。
重さはなんと2kgほどにまでなるそうです。
腸内細菌はヒトの体にさまざまな影響を及ぼすことが、だんだんと明らかになってきています。
まずは主要な腸内細菌についてみてみましょう。
腸内細菌のほとんどは「真正細菌」です。常在菌とも総称されることがあります。
一部の乳酸菌は腸などの消化管(腸内細菌)や膣の内に常在して、他の病原微生物と拮抗することによって腸内環境の恒常性維持に役立っていると考えられている。
※上記表の補足※
偏性嫌気性・・・細胞の増殖に酸素を必要としない。
通性嫌気性・・・有酸素、無酸素でも活動できる
グラム陰性・・・クリスタルバイオレットによる染色が脱色される
グラム陽性・・・クリスタルバイオレットによる染色が脱色されない
属・・・門、網、目、科の次にくる分類
例 バクテロイデス属(genus Bacteroides)はバクテロイデス門バクテロイデス綱バクテロイデス目バクテロイデス科の真性細菌の属
桿菌、球菌・・・菌の形状
桿菌(大腸菌)の電子顕微鏡写真(wikipediaより)
球菌のイメージ図(wikipediaより)
芽胞形成および無芽胞・・・・芽胞(spore)とは、きわめて耐久性が高い細胞構造のこと。芽胞を作る能力をもった細菌のことを芽胞形成菌とよぶ。
上記表の腸内細菌は、消化管の入り口である口腔から大腸までに住み着いています。
ただしそれは一様ではありません。
胃は胃酸により強力に酸性のため菌数は激減しています。
十二指腸、小腸上部にもごくわずかしかいません。
大腸に入るとその数は激増します。
ヒトが食べたものは、消化管にて徐々に栄養分を吸収しながら、大腸へと運ばれます。
また酸素濃度も大腸に近づくにつれ、無酸素状態になります。
そのため、腸内細菌とひとくちにいっても、その部位によって菌の構成はかわります。
またヒトは生まれた直後には無菌状態です。生まれて初めての便には細菌がまったくいません。
そこから外気との接触、母親との接触、食事によって細菌を取り込んでいきます。
乳児のころは、母乳から得られるビフィズス菌などが多く、他の菌は極めて少なくなっています。
そして成長するにつれ、バクテロイデス属やユーバクテリウム属の細菌が増えていきます。
大腸菌やサルモネラ菌などは有酸素化(通性嫌気性)でも増えることができます。
まな板などについた大腸菌は短時間で激増します。ただ基本的に病原性はありません。
サルモネラ菌も腸内細菌の一種ですが、ヒトや動物に感染して、食中毒症状を引き起こすことで有名です。
ボツリヌス菌は偏性嫌気性芽胞形成菌です。
食品中で酸素のない環境でも増えていき、汚染された食品を食べると、腸内の無酸素化でも増殖していきます。また芽胞形成すると強力な細胞になります。
ハムやソーセージの中の無酸素状態でも増え、それを食べることにより起こる食中毒として有名になりました。ボツリヌスはラテン語で「腸詰め、ソーセージ」の意味です。
発色剤である亜硝酸ナトリウムは、ボツリヌス菌の増殖を抑制するので、食品加工分野で使用されています、
ボツリヌス菌は酸素がない状態など一定の条件がそろうと、ボツリヌス毒素を作ります。
摂取から8時間から36時間後に吐き気、嘔吐やさまざまは神経症状を引き起こします。
ボツリヌス症はボツリヌス毒素に汚染された食物を食べることで発症します。
とくに抗生物質を服用して、腸内細菌バランスが崩れているときに発症しやすいようです。
腸内細菌の働きとしては、
・食物からの栄養吸収をコントロールする。
・抗生物質を産生し、病原菌を撃退する。
・ビタミンや短錯脂肪酸といった宿主にとって必要な物質を作り出す。
・腸内環境の維持。
・免疫系の正常な発達を促す。免疫システムの維持。
・鉄分の吸収の促進。
といったことが挙げられます。さらに深く研究がすすめられています。
抗生物質は畜産業界において、家畜を「早く太らす」ためにも使用されます。
少ない飼料で大きく太らすことができるので、畜産農家の経営にとっては死活問題と言えます。
ではなぜ抗生物質で、家畜が早く太るのでしょうか。
その仕組みは完全には判明していませんが、仮説として納得できるのは「抗生物質による腸内細菌叢への変化」です。
ジェフェリー・ゴードン博士は
バクテロイデス門を「ヤセ菌」
ファーミキューテス門を「デブ菌」
と名付けました。
肥満しているヒトの腸内では、デブ菌が優勢をしめていて、痩せたヒトの腸内にはヤセ菌が多かったという報告があります。またマウスの実験により、ファーミキューテス門は消化管を通る食べ物からカロリーを非常に効果的に取り出しているという論文もでてきました。
こうした研究は現在でも次々に発表されています。
体外から摂取した抗生物質が、腸内細菌叢のバランスを崩し、デブ菌が優勢な環境を作り出すのかもしれませんね。
家畜に過剰に投与された抗生物質を、間接的にヒトが取り込めば、大きな影響を及ぼすかもしれません。
抗生物質が過剰に投与された畜産物は、安く販売される傾向にあるように思われます。
腸内細菌叢の恩恵をうけないので、ビタミンやミネラルなどの栄養価にも乏しいかもしれません。
「ブランド肉」だからといってこうした問題がないとは言えません。
ブランド肉と呼ばれるものでも、実際に生産者を訪問すると、ここで育ったお肉は
食べたくないなぁと思うことも、私の経験上、多いです。
生産者の情報をしっかりと確認して、栄養のある安心安全なお肉をチョイスしていきたいですね。