学問所通信では
5大栄養素である「糖質」、「たんぱく質」、「脂質」と
微量栄養素である「ビタミン」と「ミネラル」の消化・吸収・代謝を学んできました。
最初はお肉の栄養という視点からはじまったのですが、いつのまにか哺乳類、そして我々ヒトの栄養学になっておりました。
私たち哺乳類はホメオスタシス(恒常性)を保とうとする素晴らしい仕組みを持っています。
この恒常性を崩すような生活(とくに食生活)をすると、病気になったり、体調不良になったり、
イライラするわけです。
そして先進国ではどこの国でも肥満や糖尿病、心筋梗塞、認知症の生活習慣病に悩んでいます。
糖尿病や心筋梗塞になると炭水化物中心の食生活を医者から指導されます。
肉や脂はあまりたべないようにいわれます。
ですが、そもそも糖尿病は血糖値がコントロールできなくなる病気です。
高血糖状態がつづき、臓器や血管が糖化することで、さまざまな合併症を引き起こします。
その一方で、インスリンやコレステロール降下剤など様々な薬品が処方されます。
それにともない、医療や介護にともなう社会保障費はいまや国家予算の三分の一(約30兆円)を占める大きな負担になってきています。
個人や企業の負担する医療費や税金も年々重くなってきています。
なんとかしなければなりません!!
生活習慣病は「ぜいたく病」と言われていました。
その原因は「カロリー摂取過剰、運動不足」にあるとされています。
私たちの生活を見渡すと「やはりそうなのか」と思いたくもなります。
肥満や生活習慣病はまた「貧困層」の問題でもあります。
1960年代にはすでに「肥満や生活習慣病は貧困層にも蔓延」していたことを示す調査もたくさんあります。貧困層ではとくに女性の肥満が目立つようです。明らかに栄養失調の子供を連れた母親がでっぷりと太っているという光景が見受けられます。
彼(彼女)らはわたしたちと同じように「カロリー摂取過剰」で「運動不足」なのでしょうか?
むしろその逆に思えます。「カロリー不足」で「運動十分」の印象を受けます。
果たして肥満や糖尿病そして心疾患などの生活習慣病は「ぜいたく病」なのでしょうか?
「貧困層の病」なのでしょうか?
その解決のためには、私たちがいままで「当然」と思っていたことになにやら「大きな間違い」があったようです。それを探していきたいと思います。
私たちは
「脳のエネルギーはグルコース(ぶどう糖)のみ」
と教えられてきました。
多くの方がこれを信じていています。
また体内のグルコースが枯渇すれば、低血糖になり、人間は倒れてしまうともいわれています。
多くの生物学や生理学、生化学のテキストにそう書かれてあります。
そして栄養学ではこの前提があるために、
「グルコースの消化・吸収・代謝」
を真っ先に学んでいきます。
まずその仕組みをおさらいしておきましょう。
食事から摂取した糖質はグルコースに分解され、吸収されます。
無酸素状態では細胞基質の解糖系にてグルコースを利用しますが、有酸素のもとではピルビン酸というものになり、細胞のミトコンドリア内で、アセチルCoAとなります。それがTCA回路、電子伝達系&酸化的リン酸化を通じてエネルギーになります。
エネルギーの単位はATPです。
この過程で生まれるエネルギーはグルコース1分子に対して、32ATPとなります。
これをエネルギー代謝の「グルコース-グリコーゲンシステム(糖質代謝)」と呼びます。
エネルギーにならない過剰なグルコースは、血液中にまじり、血糖値を上げます。
そうなるとすい臓からインスリンが分泌され、過剰なグルコースはグリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられます。しかしながら、肝臓や筋肉に蓄えられるグリコーゲンはごくわずかで、ほとんどは中性脂肪として蓄えらてしまいます。
中性脂肪が体のどこにつくのかということはあまりよく分かっていないようですが、やはりお腹周りの内臓脂肪となっていく場合が多いのではないかと思います。
これが有名なメタボリックシンドロームですね。
内臓脂肪は内分泌系細胞として、ホルモン様物質(サイトカイン)を分泌します。
ただの邪魔な脂ではないんです!!
サイトカインは血管の修復、動脈硬化抑制などの働きをするのですが、脂肪が多くなるほど、逆の働きをするようになってしまいます。
インスリンはよく「太るホルモン」と呼ばれます。
あまり聞きたくないことばですが、裏返すと、
「インスリンがでないと太れない」のです。
「なんだいいじゃないか」
と思われそうですが、実はとても怖いことなのです。
「1型糖尿病」というものがあります。
すい臓のランゲルハンス島にあるβ細胞が壊れると
インスリンは分泌されなくなります。
そうなると、摂取した糖質による血糖値の上昇を抑えることが
できなくなります。
またインスリンがでていないと、細胞は血糖(グルコース)を
エネルギーとして利用したり、脂肪として蓄えたりすることが
できなくなります。
常に高血糖状態になるわけです。
さらに、インスリンがでてないと、体は「血糖が足りない」と
判断します。高血糖状態にもかかわらずです。
交感神経が過剰に刺激され、血糖を上げよう、エネルギーを作ろうと
グルカゴンやホルモンを分泌し、蓄えた脂肪を分解し、エネルギーとして活用します。
その際に、ケトン体が大量に生成されるわけです。
交感神経についてはこちら。
学問所通信第21回 ホルモンってなあに? その2>>
血糖値も高いのにケトン体値も非常に高い。
これが糖尿病性ケトアシドーシスというものです。
血糖値は高いのにエネルギーになることなく、脂肪はどんどん燃えていく。
太れないので、どんどんどんどん痩せていくわけです。
食べても食べても太れない。
のどが異様に乾く。甘いものがさらにほしくなる。
過剰な血糖は尿になって出ていく(甘い)
やがて体内の臓器が糖化し、さまざまな合併症を引き起こします。
二型糖尿病やインスリン抵抗性が高い場合でも同じなのですが、
インスリンがまだ出ている分、太る能力は多少は残っているわけです。
体に蓄えている中性脂肪は体内のグルコースが枯渇(インスリンの過剰分泌がない状態)すると、エネルギーづくりのために、脂肪酸とグリセロールに分解されます。
脂肪酸はβ-酸化というプロセスをへて、グルコースのときと同じように、アセチルCoAになります。
アセチルCoAはもちろん細胞のミトコンドリアでエネルギーとなります。
肝臓の細胞で作られたアセチルCoAは「ケトン体」となり、脳をはじめとする全身の細胞に運ばれ、またアセチルCoAになり、エネルギーとして利用されます。
グリセロールは「糖新生」というグルコースを作り出す原料となります。
これを「脂肪酸-ケトン体システム(脂質代謝)」と呼びます。
体内に一番多い脂肪酸は「パルミチン酸」という飽和脂肪酸です。
パルミチン酸がβ-酸化されて、ミトコンドリアでエネルギーとなります。
この過程で生まれるエネルギーはパルチミン酸1分子に対して、106ATPとなります。
グルコース1分子のときは32ATPでした。なんと3.3倍以上です。
もちろんグルコースは炭素が6個、パルチミン酸は18個なので、炭素数的にはちょうと3倍差があります。炭素2つでアセチルCoA1分子になるわけですが、炭素あたりのエネルギー効率も脂肪酸のほうがいいことなになります。
体に蓄えられた中性脂肪をうまく燃やすには、糖質をカットした食事で、常にエネルギー代謝を脂質代謝にしておく必要があります。
糖質の摂取が過剰で、インスリンが過剰に分泌されていると、
インスリンは脂肪の分解を妨げる働きをします。
人間は体内にグルコースをあまり蓄えることができません。
例えば。体重50kgで体脂肪20%であれば
となります。 グリコーゲンの蓄えだけでは、基礎代謝すら賄えません。これではちょこちょこ糖質が欲しくなりますね。
脂肪を燃やすほうがエネルギー効率はよいのです。
私たちは、「動物性脂肪を食べると太る」と教わってきました。
牛の脂やラードなどの白い脂の塊をみると、「やっぱりそうなのかな」と思ってしまいます。
学校給食でも病院食でも、動物性脂肪はできるだけ使わない炭水化物中心の食事です。
さまざまな場面でも、「野菜をもっと食べよう」と耳にタコができるくらいです。
しかしながら食べた動物性脂肪が、そのまま体内の脂肪になるわけではないのです。
「食事から摂取した余剰な脂肪は、基本的には体外に排出される」のです。
ただし、脂質といっしょに糖質を摂取した場合には、余剰な脂肪は排出されにくくなり、体内に取り込まれてしまうようです。
摂取した糖質と脂質のほとんどは脂肪として蓄えられてしまうといって
過言ではないかもしれません。
「糖質」+「脂質」の組み合わせはとても危険なのです。
いつ食料が手に入るかわかならい時代には、エネルギー源を効率よく体内に蓄える仕組みだったといえます。また運動量もいまとは格段に違ったのでないかと思います。
いまのような炭水化物中心の食生活が広まったのはイギリスの産業革命のせいだとも言われています。都市に住む工場労働者が増え、彼らが時間どおりに、そして効率よく働くためには、食べやすい炭水化物中心の食事がぴったりだったのです。
余談ですが、サンドイッチの語源となったされる第4代サンドイッチ伯爵(1718-1792)はイギリスの産業革命の時代の人ですね。
それが今現在の日本にも受け継がれているといえます。肉体労働が主な方には問題ないかもしれませんが、オフィスワーク主体のひとにとっては炭水化物は悪い影響しか及ぼさないのです。