学問所通信 特集コーナー
第21回 ホルモンってなあに? その2
前回の特集では
ホルモンについて、さっとみてきました。
このホルモンと同じく重要な役割をするものに「自律神経系」があります。
ホルモンと自律神経系がともに「体内環境の維持」に役立っています。
前回のホルモンをさらに深堀りする前に、まず簡単に「自律神経系」を学んでいきましょう。
「神経」ということばは日常生活でもよく耳にすると思います。
あまりいい言葉はないですけど、
「神経痛」とか
「あなた神経がおかしいんじゃないの!」
とか
なんか原因がわからないけど、痛かったりとか、おかしいとか感じたりするときに、
「神経が〜」
となる感じがしますね。
そもそも神経ってなんなのでしょう?
私たちのような脊椎動物の神経系というものには
中枢神経系と末梢神経系というものがあります。
中枢神経系には脳や脊髄があります。頭部と背骨に集中している神経細胞の集まりです。
逆に全身に分散している神経を末梢神経系といいます。
末梢神経系には「体性神経系」と「自律神経系」があります。
体性神経系には、感覚器官からの情報を中枢につたえる「感覚神経」と中枢からの指令を筋肉に伝える「運動神経」があります。
なにかをさわってみて、熱いとか冷たいとかは「感覚神経」が脳に伝えてるんですね。
また脳が「あのお肉をつかめ!」と指示を出すと、「運動神経」に命じて筋肉を動かします。
自律神経系は「ホメオスタシス」といって体内の恒常性に重要な役目を果たします。
ホメオスタシスとは、生物の内部環境を一定に保ちつづけようとする傾向のことです。
恒常性ともいいます。
健康でありつづけるにはこのホメオスタシスが重要です。
血液中のグルコースが上昇すればインスリンによって正常値に戻そうとします。
また逆に低血糖になれば、グルカゴンによって、グリコーゲンがグルコースに
もどったり、肝臓は糖新生によってグルコースを作り出し、正常値を保とうとします。
またアルコールやアンモニアなどは肝臓で解毒され、無毒化されます。
腎臓では肝臓で作られた尿素や老廃物などを尿として排出します。
暑ければ汗をかき、寒ければ代謝を上げて、体温を維持するのも恒常性です。
ホメオスタシスは主に、自律神経系やホルモンの内分泌系の働きによって維持されています。
自律神経系の働き
自律神経系はからだのさまざまな器官と結びついています。自律神経系は「交感神経」と「副交感神経」があります。交感神経は脊髄からでて、各標的器官につながっています。
副交感神経は中脳、延髄、脊髄下部からでて、各標的器官とつながっています。
なんだか副交感神経のほうが、サブ的な名前なのに中枢神経とがっちり結びついてる感じですね。
「体性神経系」に比べて、「自律神経系」は「自分の意思でコントロールするのが難しい」という特徴があります。だから「自律」なんですね。
この「自律神経」がうまく働かないと、睡眠不足、倦怠感や頭痛、めまい、イライラ、動悸などの
症状がでます。
いわゆる「自律神経失調症」ですね。
この引き金になるのは、糖質過剰な食生活による高いインスリンレベルだといわれています。
交感神経と副交感神経はお互いに反対の作用をします。
交感神経がある器官を刺激すると、副交感神経がその器官の働きを抑制するように働きます。
このようにして、恒常性を保っているのです。
交感神経は「体全体を奮い立たせる」役割があります。
副交感神経は「体全体を冷静にさせる」役割があります。
標的器官 | 交感神経の役割 | 副交感神経の役割 |
---|---|---|
瞳孔 | ひらく | しぼむ |
気管支 | ひらく | しぼむ |
心臓 | 活発 | 落ちつかせる |
皮膚の血管 | 収縮 | ー |
腸 | 運動抑制 | 運動促進(消化がよくなる) |
肝臓 | 糖新生を活発化 | ー |
膵臓 | グルカゴン分泌を促進 | インスリン分泌を促進 |
副腎 | アドレナリン分泌を促進 | ー |
膀胱 | 排尿抑制 | 排尿促進 |
例えば、なにかのストレスに向き合った時、
交感神経は末端から神経伝達物質としてノルアドレナリンを分泌します。
ノルアドレナリンは副腎髄質でアドレナリンの分泌を促進し、血糖値をあげ、
ストレスに対抗しようとします。
心臓は動きが活発になり、血管は収縮し、血圧があがります。
これには怪我をしたときに備え、血流を少なくする意味もあるようです。
ストレスにぶち当たったとき、「顔面蒼白」という表現をしますよね。
これは血管が収縮し、血流が少なくなることで起きます。
逆に副交感神経は「アセチルコリン」を分泌します。
これは心拍数をさげ、血圧をさげ、冷静になるように作用します。
また胃や腸などの消化管の運動を増やし、消化液をより多く分泌するように促します。
食事はなるべくストレスのない状態で、リラックスをして、ゆっくり食べるのがもっとも消化によいですね。
おにぎりやサンドイッチなどの糖質過剰な食べ物は「食べやすい」という特徴があります。
栄養ドリンクや甘い清涼飲料水もそうですね。
仕事をしながらなどストレスを受けている状態で、こういった糖質過剰な食事をすれば、消化不良になってしまいます。しかもより高血糖になってしまいます。
落ち着いた状態で、糖質過剰な食事をすれば、血糖値は上がりすぎず、インスリンがどんどん糖質を脂肪に変えてくれます。
いいこと無いですね。
今認知症の分野ではアセチルコリンという神経伝達物質が注目されています。
アルツハイマー型認知症の患者を調査したところ、
アセチルコリンの減少が確認されたそうです。
このアセチルコリンの原料となる栄養素が「コリン」です。
「コリンの摂取量が多い人ほど、記憶力に優れている」
というアメリカの調査があるそうです。
実はこのコリン。ラードにも多く含まれています。
ラードには100gあたり49.7mgのコリンが含まれています。
そのほか、コレステロールを多く含む食品、肉、玉子などにも豊富に含まれています。
一日に必要な量は、500mg程度とされていますが、
肉卵チーズをラードで調理すれば、不足はさほど心配しないでもよいかもしれません。
糖質の多い食事、脂質の少ない食事はアルツハイマーを招いてしまうかもしれませんね。
副腎疲労(アドレナルファティーグ)
自律神経系と内分泌系器官から分泌されるホルモンは相互に協調しています。
前回、甲状腺ホルモンについてのべました。
たとえば、人が寒さを感じると、中枢神経系から自律神経系にその信号が送られ、
血管を収縮し、血圧を高めます。また甲状腺ホルモンによって代謝をあげ、体温を維持するようになります。
またストレスを感じると自律神経系はストレスに対応しようと、体の緊張を高めます。
そして血糖値をあげるために、副腎からアドレナリンや糖質コルチコイドといったホルモンを分泌させるのです。
副腎というのは5g程度しかない小さな臓器です。
腎臓の上にちょこんと乗っかっています。
名前からして、腎臓のサポートをしそうな感じですね。
でも実態は内分泌器官として、人間が元気に生きていくうえで重要なさまざまなホルモンを分泌します。もちろん自律神経系とも密接に関係しています。
*副腎には副腎皮質と副腎髄質があります。副腎皮質も大きく3つにわかれ、それぞれ異なるホルモンを分泌します。ここでは、まとめて単に「副腎ホルモン」としておきます。
現代人はとかくストレスの多い生活を送っています。
ストレスを浴びると副腎から糖質コルチコイドというホルモンが分泌されます。
糖質コルチコイドにはタンパク質を糖化して血糖値を上昇させます。同じく血糖値をあげる作用のあるグルカゴンやアドレナリンに対しても作用します。
その糖質コルチコイドのほぼ95%がコルチゾールによるものです。
このコルチゾールは別名「ストレスホルモン」と呼ばれています。
コルチゾールはストレスを乗り越えるために、必要なホルモンなのです。
ただし過剰なストレスを浴び続けると、副腎がホルモンを出しすぎ疲れてしまい、やがてホルモンの分泌量が減ってしまいます。そうなると、体に様々な不調をもたらします。
副腎ホルモンは朝多く分泌され、朝の目覚めに関係しています。
副腎疲労がおきるとホルモンの分泌がないため、朝なかなか起きれなくなります。
また副腎ホルモンが少なくなれば、血糖値が上昇しずらくなります。
なので、元気がでないのです。
血糖値があがらないため、コーラやチョコなどの甘いものやカフェインなどを欲します。
一時的に元気になりますが、すぐにバテてしまいます。
副腎から分泌される性ホルモン(男性なら女性ホルモン、女性なら男性ホルモン)が副腎疲労により減少すれば、性欲減退ももたらします。
そして、夕方くらいからやっと副腎ホルモンの分泌が整い、元気になります。
ひと昔前に「5時から男」と流行語にまでなった栄養ドリンクのCMがありました。
きっとみんなストレスで副腎疲労だったのでしょうね。
副腎ホルモンの原料となるのはコレステロールです。
これまで私たちはコレステロールは悪いものとばかり教え込まれてきました。
薬で細胞に無理やりコレステロールを飲み込ませ、血中のコレステロールだけが減ったように
みせかけてきました。
しかしコレステロールは、細胞の保護、ホルモンの原料などなど重要な役割を果たします。
肝臓が元気であれば、食事から接種するコレステロールはまったく気にすることはありません。
むしろウエルカムですね^^
ストレスを浴びず、コレステロールをしっかりとり、副腎に元気に働いてもらうのが健康の秘訣です。
普段の血糖値が平均で100mg/dlくらいの方の健康なビジネスマンの話です。
決算前の仕事の追い込みや書類とのにらめっこで、かなりのストレス
を抱えていました。
なんだかイライラするなあと思い、ふと血糖値を測ってみたそうです。
するとビックリ「140mg/dl」
甘いものを食べたわけでもありません。
自律神経系がストレスに反応し、副腎ホルモンを分泌させ、血糖値を
上昇させたのです。
こうなるとイライラするし、甘いものがさらにほしくなります。
消化もよくない状態なので、いいことないですね。
一息入れて、リラックスしましょう。
血糖値と恒常性
糖質を摂取すると食後血糖値が急上昇します。
すると副交感神経は、高血糖状態を低血糖状態にするための信号を送ります。
膵臓のランゲルハンス島のβ細胞は、インスリンを分泌して、糖質(グルコース)をグリコーゲンに変え、肝臓や筋肉に蓄え、血糖値をさげようとしてます。
しかし体に蓄えられるグリコーゲンはごく僅かです。
あまりに余ったグルコースはすべて脂肪に変えられ蓄えられます。
こうして恒常性を保とうとします。
逆に、低血糖になったときには、交感神経が興奮し、膵臓のランゲルハンス島のα細胞から
グルカゴンの分泌を促し、体中に蓄えられたグリコーゲンをグルコースに戻すことで、血糖値を上昇させます。
また脳の視床下部の血糖調節中枢が指令を発し、さまざまな刺激ホルモンが放出されます。
甲状腺では甲状腺ホルモンの分泌が盛んになります。
成長ホルモンも分泌されます。
アドレナリンや糖質コルチコイドも分泌されます。
こうして肝臓では糖新生が活発になり、グルコースを作り、血糖値を上昇させ、恒常性を保ちます。
この図からもわかるように、
人間は低血糖を防ぐ仕組みを何重にもっています。
そして健康であれば、そんなに簡単に低血糖に陥ることはありません。
臓器への負担も分散されるますよね。
たとえ低血糖であっても、低糖質・中たんぱく質・高脂質食で、体のエネルギー代謝が脂質・ケトン体優先となっていれば、低血糖で倒れることもありません。またさまざまなホルモンを過剰に分泌させることも防げます。
そのためおだやかな、ストレスを感じない生活を送ることができるのです。
糖質摂取によって高血糖に対応するのは膵臓のβ細胞からでるインスリンのみです。
現代人の食生活では、インスリン分泌の負担が大きすぎます。
そのため、この仕組が壊れれば、高血糖から身を守ることはできなくなります。
過剰な糖が尿として排出され、糖尿病となります。
そして透析への道をまっしぐらに進むことになるのです。
高血圧の原因
高血圧は糖尿病の合併症として発症します。
糖質過多の食生活で腎臓が糖化し、塩分排泄機能が低下します。
塩分は腎臓でろ過されて排泄されるのですが、うまくいきません。
腎臓は血液の量を増やして、なんとか排泄しようとします。
そのため、血圧が上がるのです。
また高血圧の原因もひとつとして、
交感神経が緊張状態になることにあります。
交感神経が緊張状態になると、心拍数を上げてしまい、
結果として高血圧になります。
この交感神経を緊張状態にするのがインスリンです。
インスリンがでるときは、もちろん「糖質をとった時」ですね。
「ストレスを受け流し」、「糖質を過剰に摂取しない」
生活が、健康への第一歩ですね。
次回のテーマは「新しい栄養学とケトジェニックダイエット」です。
お楽しみに。