学問所通信 特集コーナー
第14回 食肉の栄養 -ビタミン編-
私たちはよく「風邪をひいたらビタミンCをとろう」とか、漠然と「ビタミン不足だ」とか、
日常的にビタミンという言葉を使います。
ビタミンC入りを謳ったドリンクもいっぱいでています。
またビタミンサプリもいろいろな種類が販売されており、売れ行きも盛況なようです。
でもビタミンって何なのでしょう。
本当に必要なものなのでしょうか?
サプリで補わないと足りないものなのでしょうか。
ビタミンは体の中でどう活用されているのでしょう。
今回の学問所通信ではこれらの疑問を探っていきたいと思います。
第14回 食肉の栄養 -ビタミン編-
まずはおさらい+アルファ
体を作ったり、エネルギーを代謝したりする材料となる主なものは
三大栄養素と呼ばれる糖質(炭水化物)、たんぱく質、脂質です。
これらは消化され吸収されることでエネルギーとして代謝されます。
エネルギーの元になるのがATPと呼ばれるものです。
ATPは「アデノシン三リン酸」と読みます。
「adenoosine triphosphate」、略してATPと呼ばれます。
左側に酸素に囲まれてリン酸(P)が3つ連なっていることがわかります。
ATPの一番端のリン酸が切り離されることで、エネルギーになります。不思議な感じですね。
ではこのATPはどうやって作られるのでしょう。
前回の「第13回 栄養学と糖質制限」でみたように解糖系で細胞内でグルコース(ぶどう糖)からATPは
合成されます。解糖系では酸素を必要としないので「嫌気性代謝」とも呼ばれます。全力ダッシュなどの無酸素運動のときにエネルギーとなるイメージですね。
解糖系では「コエンザイム」(聞いたことありますよね)という酵素が必要になります。
もうひとつは、細胞のミトコンドリア内でTCA回路(クエン酸回路)というものでもATPが作られます。
こちらは酸素を必要とするので「好気性代謝」ともよばれます。
解糖系では1つのグルコースから2つのATPしか作られません。
TCA回路では1つのグルコースから36個ものATPが作られます。
非常に効率のよいエネルギー生産です。
TCA回路のあるミトコンドリアはひとつの細胞内におよそ100個から3000個が入っているといわれています。
細胞内のミトコンドリアの個数は臓器によっても変わります。筋肉でも白筋(速筋)と赤筋で違ってきます。
白筋は急激な運動で使われる筋肉でミトコンドリアはほとんど存在しません。
そのため、解糖系のエネルギー代謝となります。でもエネルギー生産量が少ないので、すぐ疲れちゃいますよね。瞬発力はあるけども、持続力のないエネルギー代謝といえます。
全力ダッシュをするとすぐにパワーがなくなるのはこのせいです。そして「ぜぃぜぃ」と呼吸が荒くなるのは解糖系では間に合わなくなったエネルギーをTCA回路でを作ろうとして酸素を取り込もうとするためです。
赤筋の細胞はミトコンドリアをもっていて、TCAサイクルがじっくり大量のエネルギーを生み出します。酸素を取り入れながら、持久力の必要な運動にはもってこいのエネルギー代謝です。
白筋は短距離ランナーに多く、赤筋は長距離ランナーに多いのでイメージがしやすいと思います。
そして、いわゆる「基礎代謝が高い」ひとのミトコンドリアは「低いひと」よりも多くなります。
実はこの「ミトコンドリアを増やす」ことが代謝を良くし、健康になる秘訣です。
このことはブログ「ミトコンドリアを増やして代謝を上げる」にも書いていますのでご参考ください。
さて話を戻します。
ミトコンドリア内のTCA回路でエネルギーを作るためには「補酵素」というものが必要です。
この補酵素がビタミン(とくに水溶性ビタミン)と密接に関係があります。
上図のTCA回路だけを詳しく書くと
アミノ酸やグルコースが消化されて合成されたピルビン酸や脂肪酸がβ-酸化されたものはミトコンドリア内でアセチルCoA(コー)になります。これがクエン酸からさまざまな中間物に変わり、オキサロ酢酸になって、またクエン酸にもどる過程でエネルギー作られるのがTCAサイクル(クエン酸回路)と呼ばれるものです。
上記図に登場するCoAやNAD+、FADとあるのが補酵素です。補酵素はアセチルCoAが中間物に変化していく過程で水素を抜き取ります。そして二酸化炭素を放出します。
そして電子伝達系と酸化的リン酸化で酸素を利用しながらエネルギーを作っていきます(TCA回路でてきたNADHやFADH、GTPを利用)。その際に水が作られます。
※コエンザイムQ10とシトクロムcという酵素も重要な役割をします。
呼吸に二酸化炭素と水が含まれるのはこのためですね。
エネルギー合成に必要な補酵素がビタミン(水溶性ビタミン)から合成されるため、ビタミンが不足すると、エネルギーの代謝がうまくいかなくなるのです。
疲れると「ビタミン不足だ!」といってしまうのはあながち間違いでなないようですね。
ビタミン
ビタミンとひとことにいってもいろんな種類があります。
また当初はビタミンと思われていたものが、のちの研究で脂肪酸などだったりとわかったものもあります。
大きく分類すると、水に溶けやすい(水溶性)ビタミンと脂に溶けやすい(脂溶性)ビタミンがあります。
<水溶性ビタミン>
水溶性ビタミンにはビタミンB類やビタミンCがあります。聞いたことはあるけど、具体的にどんな機能があるかというのは
あまり知らないのではないでしょうか。
水溶性とは水に溶けるということです。そのためビタミンCやビタミンB類はある程度過剰に摂取しても尿として排出されるため、問題ないとされているようです。
不足すると様々な問題がでます。
そして水溶性ビタミンは上記で説明したTCA回路で必要な補酵素の材料となるものです。
別名:チアミン チアミンピロリン酸(TTP)という補酵素にあり、ミトコンドリア内でピルビン酸をアセチルCoAに変えるのを助ける。TCAが回路がうまく回るように機能する。 |
脚気になる。 筋肉痛や肩こりの原因になる。 目の疲れの原因 エネルギー不足となり心臓などの臓器に影響。神経細胞の壊死によって神経障害を引き起こす。 ※ほとんどの食品に含まれるので不足することはない。 |
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肉類、豆類、牛乳、 緑黄色野菜 米ぬか 1日摂取量目安:1.1mg |
別名:リボフラビン ビタミン=黄色なイメージはこのビタミンB2です。 フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の材料となる。酵素反応によってFADH2になりTCAが回路がうまく回るように機能する。 電子伝達系で活躍するフラビンモノヌクレオチド(FMN)の材料にもなる大切なビタミン。 |
子供の成長障害 口内炎や皮膚炎 エネルギー不足となります。 ※体内で合成されないので食事からきちんと摂取 |
おしっこが黄色くビタミン臭がする | 卵や肉類(特にレバー)、ドジョウ、緑黄色野菜 1日摂取量目安:1.5mg |
ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンのこと。これらは体内でピリドキサールリン酸(PLP)となる。 アミノ酸を材料にして作られる神経伝達物質γ-アミノ酪酸の材料として利用される。 アミノ酸から「糖新生」の原料となるピルビン酸やオキサロ酢酸を作るときに使われる。 |
神経障害 痙攣 脂漏性皮膚炎 ※腸内細菌が常に供給するので通常欠乏症になることはない。 |
抹消感覚神経障害 |
バナナ、鮭 1日摂取量目安:1.2mg |
別名:シアノコバラミン コバルト(Co)を含み赤い色をしています。 体内でアデノシルコバラミンというものになり補酵素として機能する。 |
悪性貧血の原因 脊髄神経へ影響(位置感覚や触覚が悪くなる。歩行困難になる。) ※必要な量はごくわずかだが、通常不足することはない。肝臓での貯蔵も可能。ただし胃を切除したひと、胃から糖蛋白の分泌が不十分な場合、吸収されず不足することがある。 |
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レバー、牡蠣 ※野菜や果物にはまったく含まれない。 1日摂取量目安:24μg |
旧名:ビタミンB3 ニコチンアミドとニコチン酸のこと※本来は核酸に分類される 体内でNADやNADPを合成して補酵素として働く。エネルギーを作る上でもっとも重要な物質 |
胃腸炎や皮膚炎などの軽い症状が主。 重度だと、幻覚や記憶喪失などの症状 (トウモロコシなどの食べ物だけを食べる生活が続いた場合) ※体内でアミノ酸のトリプトファンから合成されるが足りないので外部から摂取する必要がある。食品のほとんどに含まれているので不足することは通常ない。 |
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サバ、カツオ、イワシなどの魚類、レバーや豆類 1日摂取量目安:15mgNE |
旧名:ビタミンB5 アセチルCoAなどのCoAの材料となります。CoAは補酵素として、エネルギー合成に重要な役割をもつ。 脂質の分解、再合成などをコントロールする。 |
成長抑制 体重減少 突然死 ※ほとんどの食品に含まれるので不足することはない。欠乏してどうなるかはあまりはっきりと分かっていない。 |
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卵、レバー、牛乳、納豆、ピーナッツ 1日摂取量目安:6mg |
旧名:ビタミンB7 補酵素として糖新生で重要な役割を果たす。アミノ酸からできたピルビン酸をオキサロ酢酸に変える糖新生の最初の反応で機能する。 |
妊婦がビオチン欠乏症になると奇形児が生まれることがある。 皮膚炎、脱毛、神経障害 ※腸内細菌が常に供給するので通常欠乏症になることはない。生卵の白身を食べ過ぎると欠乏症になることがある。風邪時に抗生物質をたくさんとると欠乏症になることがある。 |
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酵母、レバー、豆類、卵の黄身 1日摂取量目安:45μg |
旧名:ビタミンB9 体内でテトラヒドロ葉酸(THF)となって核酸の合成で活躍する。 アミノ酸の代謝で利用される。 |
悪性貧血 胎児の神経管発育不全 ※ほとんどの食品に含まれるので不足することはない。体内での貯蔵も可能。 抗がん剤や抗生物質の使用時や、小腸の病気でうまく摂取できないときがある。 |
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酵母、レバー、豆類、卵の黄身 1日摂取量目安:45μg |
活性酸素を無毒化する。 皮膚のコラーゲンを正常に保つ。 脂肪酸を分解してミトコンドリア内に運ぶときに必要なカルニチンもビタミンCの働きで作られる。 コレステロールを排出する胆汁酸の生成にも必須 |
壊血病 皮下出血 ※体内に多数存在し、通常不足することはない。 |
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果物、野菜、刺し身 1日摂取量目安:100mg |
※表の作成にあたっては「図解トコトンわかる基礎生化学(池田和正著、オーム社)」を参考
太字の部分が水溶性ビタミンがエネルギーを作る上で大切な機能を果たしている部分です。
水溶性ビタミンは、エネルギーの代謝と密接に関わっていることがわかります。(下記参照)
摂取した栄養素が分解されたり、エネルギーになるためにさまざまな水溶性ビタミンが活躍しているのがわかりますね。
これらのビタミンはほとんどの食品に多く含まれ、通常であれば不足することはありません。
そのため、不足するとどうなるかというのがはっきりとわかっていない場合が多いのです。
過剰に摂取しても尿として排出されるだけです。
脂溶性ビタミンの特徴は水に溶けず脂に溶けるということです。そのため、過剰に摂取すると体内に蓄えられ、悪さをすることがあるということです。
また水溶性ビタミンと違いエネルギーの代謝に関係するのではなく、体内のいろんなところにはたらいて健康的に生きていくために必要とされてます。
脂溶性ビタミンが吸収されるときには脂肪が必要となります。食事中の脂肪が少ないとうまく吸収されません。
別名レチノール ニンジンに含まれるβカロテン(プロビタミンA)が酵素によってビタミンA2個に切断される。 動物性食品にはビタミンAそのままの形で豊富に含まれている。 |
夜盲症(トリ目) 乾燥眼炎 皮膚や粘膜の角質化 皮膚の異常乾燥 胎児異常 |
頭痛 嘔吐・衰弱 皮膚炎 頭痛 皮膚の荒れ、痒み 奇形児出産の危険性 |
バターやウナギ、内臓、ニンジンやかぼちゃなどの緑黄色野菜 |
ビタミンD2、D3に分離される。 カルシウムの吸収、再吸収を促進し、骨の代謝に大きな役割 ビタミンDは血液中を通して腎臓や小腸、骨などに信号を送っているホルモン。 太陽の紫外線を浴びることでコレステロールになる一つ前の物質からヒトの皮膚で合成されるが、食事からD2をきとんと取れば基本的に不足することはない。 |
骨に異常。 乳児のビタミンD。不足は骨の変形をもたらす。 くる病 骨軟化症、骨粗鬆症 |
ビタミンD中毒 腎臓にカルシウムが溜まりすぎ、カルシウムの石が腎不全を引き起こす。 |
いわし、鮭などの魚 1日摂取量目安:5μg |
別名:α-トコフェロール 動物の繁殖に必要なビタミンとして発見される。人間の妊娠には必ずしも必要でない。 悪玉酸素である活性酸素を消去する抗酸化作用がある。それにより細胞膜が破壊されないように守る。それにより心筋梗塞や脳梗塞を防ぐので「老化防止」のビタミンともいわれる。 |
血管が壊れやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞など様々な問題を引き起こす。 |
過剰に摂取しても問題はないとされているが、医薬品としては一応一日の上限がある。 大量摂取すると血が固まりにくくなる。 |
油、種実類、魚卵など。 1日摂取量目安:8mg |
血液が凝固するときに必要なビタミン。 ビタミンK1とビタミンK2という形で体内に取り込むことができる。 ビタミンK1は緑黄色野菜に多く含まれる。 ビタミンK2は腸内細菌が生成する。 |
食事を制限しているときに脂肪をきちんと採らないと、ビタミンK欠乏症になる。出血や血液凝固の遅延 |
溶血性貧血 肝機能障害 |
納豆、青菜 1日摂取量目安:75μg |
ビタミンは三大栄養素(糖質、たんぱく質、脂質)と違い、必要な量はごくわずかです。
肉・たまご・チーズなどの食事をきちんととっていれば基本的に不足することはありません。
減量だといって低脂肪食をとっていると逆に脂溶性ビタミンが吸収されにくくなってしまいますね。
それにしてもビタミンサプリがこれほど流通しているのは、
現代人が不健康な食生活を送っている証拠なのでしょうか。
ちなみに最新の研究ではビタミンAの不足が膵臓のβ細胞を破壊し、
糖尿病をまねく可能性も指摘されています。
さらなる研究が待たれるところです。
「ビタミンA不足で糖尿病に、血糖を下げる「ベータ細胞」が消滅の恐れ」
リンク:http://www.mededge.jp/a/hcgo/7638
次回は最後の栄養素「ミネラル」についてです。これまでみてきた5大栄養素がお肉にどのくらい含まれているのか、そして生理活性物質やフィトケミカルについてまとめてみたいと思います。