学問所通信 特集コーナー
第25回 本当に栄養のある肉とはなにか~牧草牛編 ~
いま牧草牛がブームです。
古くからの学問所のお客様はご存知かと思いますが、
昔からNZ産ビーフを取り扱ってきました。
ニュージーランド産ビーフについて
なぜ「九州食肉学問所なのにNZ産ビーフなの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
その答えは「飼料」と「肥育方法」にあります。
NZ産ビーフの特徴は「放牧牧草飼育」です。
牧草のみで育ったものを「グラスフェッド」と呼んでいます。
「グラス」とは牧草のことです。
「フェッド」とは給餌された、エサとして与えられたということです。
グラスフェッドは「牧草肥育」と訳されます。
そして牛たちは牧草地に放たれ、新鮮で栄養の高い草を食べて育っていきます。
これは日本で育つ和牛などのお肉とは正反対の育て方です。
和牛や国産牛肉、また日本でもよく流通しているアメリカ産はほぼ穀物で育てられます。
これを「グレインフェッド」と呼んでいます。
「グレイン」は穀物という意味です。
グレインフェッドは穀物肥育と訳されます。
日本でも、放牧していることをうたっている牛肉もありますが、
ほとんどの場合でイメージ的なものです。
実態はグレインフェッドです。
放牧肥育=牧草肥育ではないので要注意です。
九州食肉学問所では、「牧草」で育ち、かつ「放牧」されて育つ牛肉こそ、人間にとって高い栄養価があり、健康的に生きていく上で必要なものと考えています。
ただ現在の日本には「牧草&放牧」肥育された牛というのはほとんどいません。
そこで日本の畜産業界がめざす将来像としてNZ産の牧草放牧肥育牛を販売しております。
成長ホルモン剤や抗生物質を使用していない点もNZ産ビーフが人間の食糧として優れている点です。
牧草肥育と穀物肥育の違い
牛は本来、草を主食としています。
本当は牧草で育てるのが筋なのですが、日本では食肉用も乳用も穀物を主体とした飼料で牛を育てています。それはなぜなのでしょうか?
- 1:太るスピード
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とうもろこしや小麦などの穀物で育てると牛は太るスピードが速くなります。
反対に牧草で育てると、なかなか太らないのです。 - 2:霜降りの入り方
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日本人はやわらかくて甘みのある霜降り牛肉が大好きです。
ただこの霜降りを作るためには、牛を栄養不足(特にビタミンA)にすることが行われています。
そして薄暗い牛舎の中で、なるべく運動させないようにしています。
牧草牛ではこの霜降りはほとんど入りません - 3:脂の色
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牧草でそだった牛の脂は黄色みがかかっています。また脂もどちらかとゆうと鶏や魚の脂の性質に近づき、酸化しやすくなります。
あまり食べやすい食感の脂ではありません。
これに対して、穀物でそだった牛の脂身は白もしくはクリーム色になります。
融点は上がりますが、日本人の舌にはちょうど良い感じになります。 穀物肥育の牛肉というのは、多くの日本人の嗜好にあっているようです。牧草肥育牛肉は、もともと日本人が「この牛肉は草くさい」といってあまり受け入れてこなかった牛肉です。
栄養価の違い
それでは牛が食べるものの違いはお肉の栄養にどう影響するのでしょうか。
和牛の霜降りなどの穀物肥育牛は、栄養を蓄えるというよりは、脂肪を蓄えていきます。
私たちが霜降り牛肉を買うとき、内容量の半分は脂肪を買っているようなものです。
これに対して牧草牛は健康に育ち、たんぱく質、ミネラル、ビタミンを蓄えていきます。
また赤身肉には脂肪燃焼効果のあるLカルニチンが豊富に含まれています。
脂肪の色は黄色ですが、ωー3脂肪酸という抗炎症作用のある脂肪酸の含有量が増えます。
これまでの学問所通信でも触れましたが、私たちの普段の食生活ではωー3脂肪酸がかなり不足します。
天然ものの魚の脂にも多く含まれています。
日々の牛肉は放牧牧草飼育のものを選び、意識して栄養素を取りたいですね。
草だったらなんでもいいの?
牧草といっても千差万別です。
一番汎用性のあるのはイネ科の牧草です。また栄養価の高いのがマメ科の牧草です。
マメ科牧草(アルファルファなど)はイネ科牧草に比較してタンパク質やカルシウムやマグネシウムといったミネラル含量が高いという特徴があります。
とくに腐植のしっかりとした土壌に育った牧草は栄養価が高くなります。
上記の牧草の画像をみてください。 青々としているでしょう? 栄養満点です。
そうした牧草を食べれば、牛たちも栄養満点で病気になることもありません。
NZ産の牧草牛が、成長ホルモン剤や抗生物質を投与する必要がない理由がわかります。
反して、穀物主体で育った牛は、常に病気との闘いに悩まされます。
稲わらなども給餌しますが、枯れた栄養のない牧草の場合がほとんどです。
栄養がたりません。
農場の大規模化がすすんでおり、過密な飼育がこれを後押ししています。
多くの場合で、穀物主体の肥育では、牛たちは、自然の土に触れたり、日光を浴びたりすることがありません。
そのため、投薬が必然と増えてきます。
*抗生物質には増体効果もあります。
そして極め付けは太らせるために、穀物飼料をどんどん増やし、
かつ低栄養にすることが行われています。
体重増加や霜降りといった経済性ばかりがもてはやされ、それが本当に人間が食べるべきものなのかという視点は忘れ去られているのです。
牧草で育つ牛は、病気のリスクが少ないです。牛が本来食べるべきものを食べて、栄養に満ち足りているからです。NZ産の牧草牛は基本的に抗生物質などの投与はありません。
健康的なお肉ですね。
人間は肉食動物ですから、本当の意味で健康的に育った牛肉を食べることが、
健康につながっていくのです。
すべての生物は生まれながらにして健康である。 この摂理は、土壌・植物・動物・人間を一つの鎖の環で結ぶ法則に支配されている。 最初の環=土壌の弱体と欠陥は、 第二の環=植物に影響し、 第三の環=動物を侵し、人間にまで至る。 共生の原理に基づく循環系、 そこに生命存在のモデルを見ることができる。 母なる大地から収奪した要素を 還元しない化学肥料依存の農法は、 近代人の肉体と精神に計り知れない 影響を及ぼしている。
本来なら、動物(人間も含め) の死骸や排泄物は土壌に返され、
それが土壌の状態を良くしていくものです。
その土壌でそだった植物は栄養があり、病気にも強いのです。
そうした植物を動物や人間が食べることで、私たちも病気に強くなります。
いまの現状では、土壌はやせ細る一方で、化学肥料(有機肥料であっても)
がなければ作物を育てることは難しくなっています。
作物は病気にも弱くなります。
そのように育った作物を飼料とする畜産物やその肉を食べる人間は負の影響を受けてしまいます。
病気になるのも、実は作物や畜産物が育った土壌の栄養状態が関係しているのです。
大分県産牧草肥育牛プロジェクト
最後になりますが、九州食肉学問所では大分県内の畜産農家の協力をえて、牧草牛を育て始めました。
畜種はブラウンスイスというものです。
あまり聞いたことないと思います。
ブラウンスイス種というのは、ホルスタイン種やジャージー種と同じ、牛乳を搾る目的に使われる牛です。お母さん牛が牛乳を出すためには、妊娠して赤ちゃん牛を生む必要があります。
生まれた赤ちゃんがメスであれば、またお母さん牛になってもらって、牛乳を搾ることができます。
オスだった場合は、事情が複雑です。
ホルスタイン種のオスであれば、太りやすいので肉用として育てられます。
しかし、ジャージー種やブラウンスイス種の場合は、体も小さく、肉用として育てても大きくなりません。そのため、「廃棄」されてしまうのです。
こうした廃棄される子牛たちを救い、牧草で育てることで、ω-3脂肪酸とL-カルニチンいっぱいのお肉になってもらうことを目論んでいます。
「あなたの体はあなたが食べたものが食べたものでできている」
霜降りでやわらかい肉ではなく、栄養価の高い肉をつくる。
もちろん飼料となる牧草も健康的に育ったものでなければなりません。
そうした肉を食べることで、人も健康的にいきていけるのです。
しかしながら理想の実現に向けての課題は大きいのです。
良い土壌で栄養価の高い牧草地の整備をしていかなければなりません。
放牧することによって牛に寄生するダニの問題を考えなければなりません。
その他にもいろんな課題があります。
課題をひとつひとつ解決しながら、実現していきたいと思います。