食中毒の患者数の推移
厚生労働省は食中毒予防として「付けない、増やさない、やっつける」を3原則としていますね。
つまり、除菌を徹底しろということです。手洗い・うがいは基本として、食材やまた板などの厨房設備などの除菌が食中毒には効果的だ!ということのようです。
図1をみると食中毒患者数(折れ線)は平成12年度の4万人オーバーから、平成30年(2018年)では1万7千人程度と半減しています。これだけをみると、除菌や衛生面の徹底が功を奏してきたかのように思えます。
しかしながら平成20年(2008年)~平成30年(2018年)だけの部分を見てみると、増えたり減ったりで、さほど食中毒の事件数・患者数の減少はさほどではない感じもします。確かに減ってはいますが。みんな除菌・殺菌をさぼったのでしょうか(笑)
病因物質別患者数の推移
図1で平成12年から13年にかけて、食中毒の患者数が急激に減少しています。これは平成12年にぶどう球菌を原因とする「雪印ブドウ球菌食中毒事件」という特殊要因があったから(図2参照)です。
ブドウ球菌による食中毒については、実は1980年代からにすでに漸次減少してきていました。この要因には手洗いや手袋の使用が大きく影響しているかもしれません。ぶどう球菌食中毒の原因の多くが「おにぎり」でした。いまではおにぎりを握るときにはビニル手袋をしたり、押し型を使ったりするのが普通になってきました。 また添加物たっぷりのコンビニおにぎりが主流になりました。これらがブドウ球菌による食中毒を抑えてきた大きな要因といえます。
サルモネラ属菌による食中毒の対策も進んできました。サルモネラ菌といえば生卵というイメージを持つ方も多いと思います。
サルモネラ菌についてはどちらかというと生産者側の対策(ワクチン接種)などが考えられます。
サルモネラ、腸炎ビブリオ、ウエルシュ菌、ぶどう球菌、病原大腸菌、カンピロバクターといった細菌よる食中毒患者数がある程度抑えられている一方で、際立っているのがノロ・ウイルスによる食中毒です。細菌ではなくウイルスであるといのがポイントです。感染力が高く、患者数が大きく増える最大の原因となっています。図2だけで判断すると、細菌性の食中毒が大きく抑えられる一方で、ウイルス性食中毒のノロ・ウイルスがときおりパンデミックを引き起こしながら、好き勝手し始めたようにもみえます。
細菌性食中毒で気になる点が2つあります。まず1つ目はカンピロバクター食中毒です。 1度に2名以上の食中毒をだした原因としてカンピロバクターはノロウイルスにつづぐ第2位(11.9%)となっています。潜在的なカンピロ食中毒の患者は実はさらに多いと考えられます。カンピロバクターは症状が軽いケースが多いため、病院で治療というところまでいかな場合があります。
カンピロバクターは「偏好気性」細菌です。簡単にいえば酸素がある環境を好みます。これに対してサルモネラ、腸炎ビブリオ、ウエルシュ菌、ぶどう球菌、病原大腸菌は「嫌気性」です。酸素を嫌います。この性質の違いにより、カンピロバクターは汚染が広がりやすいのだと思われます。食中毒関連のニュースで多いのはこのノロウイルスとカンピロバクターによる食中毒なのもうなづけます。
嫌気性細菌による食中毒で気になるのが、ウエルシュ菌による食中毒です。一時期は押えられましたがここ2~3年は増加傾向にあります。この菌は芽胞というもので自分の身を守ります。高温の加熱調理でも生き残ります。大量に調理される食材の中は無酸素となり、ウエルシュ菌にとっては都合のよい環境になります。飲食店、仕出屋、旅館、学校などで食べる前日に大量加熱調理するカレーやシチュー、スープなどで食中毒が発生する事例が多くなっています。 また最近では真空低温調理なども人気です。こうしたことも影響していないか究明していかないといけないですすね。
余談ですが、真空状態だと菌が繁殖しないと思っている方が多くいます。また菌やウイルスがいると必ず食中毒やインフルエンザを必ず引き起こすと思ってる方も多いです。これは間違いです。
原因施設別患者数
最後に原因施設別患者数を見ていきます。どんな施設が食中毒を発生しやすいかということです。下記図をご参照ください。
皆さんがイメージされた通りかもしれませんが、食中毒の発生する場所としては飲食店(49.6%)、仕出し屋(15.5%)、事業所の食堂(11.3%)、旅館(7.3%)、学校(6.2%)で90%を占めます。
その反面、食品製造所(2.0%)、家庭(1.3%)、病院(0.6%)と割合的にはとても少ない。
食中毒が発生すると、保健所がやってきてます。 事件を起こした店舗を「営業停止処分」にするのです。そして衛生面の徹底をさらに指導します。食品製造所や病院などは衛生面では飲食店などよりも徹底しているため、そうすることが効果的だと考えているからでしょう。だけど、食品製造所や病院などで、食中毒患者数が少ないのは、製造される食品は保存料が添加さているためかもしれなません。また原材料を徹底的に殺菌・加熱するからかもしれない(もう栄養なんてのこっていない!)。病院では食事の衛生面は飲食店よりも徹底しているかもしれませんが、院内感染など他の問題も発生しやすくなっているようです。
まとめ
除菌や殺菌の徹底がすすみ、嫌気性細菌による食中毒がある程度抑え込まれる一方(しかしながらこれ以上の効果は期待できない、本当に効果があったのかも疑わしいが)で、ノロウイルスがのさばってきたという見方もできます。殺菌や除菌をすると食中毒の原因菌だけではなく、無害な大腸菌などもすべて取り除いてしまいます。こうしたことがもしかしたらノロウイルスがのさばっている原因かもしれません。 カンピロバクターも今以上に減る見通しはありません。
今後も厚生労働省は除菌・殺菌を食中毒予防のために推し進めると思います。ノロウイルスに効く!といった除菌剤もでてくるかもしれません。しかしながら、これはほんとうに望ましいことなのでしょうか。
食中毒のニュースなどで気になることがひとつあります。 それは「同じ場所で食事をとったのに、食中毒症状を発症しなかったその他大勢のひとがいること」です。 食中毒症状がでなかったひとの食べたものには運よく食中毒菌がいなかったのでしょうか?もちろん運よく汚染された食品を避けたのかもしれません。ですが、まったく食中毒菌がいなかったとは考えにくいです。
この「食中毒を発症しなかったその他大勢」については報道レベルではあまり語られることはありません。調べられないということもあるのでしょうが。 しかしながら彼らを調査することなしに、今後有効な対策がでるようにも思えないのです。もしかしたら、食中毒の予防には「食中毒の原因菌を徹底的に取り除くこと」が必要なのではなく、「あなたの代謝や免疫力を整える」のが大切なのかもしれません。 下痢や腹痛は放っておいていい「正常な反応」なのかもしれないのです。このあたりをさらに深堀してきたいなと思います。
とりあえず手っ取り早く食中毒患者数を減らすには「飲食店や仕出し弁当を利用するな」ということなのですが、厚生労働省はとてもそんなこと言えないでしょうね(笑)